ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

もっと評価されるべき "ショスタコーヴィチ"

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

映画音楽のルーツがここにある。

さて、遂にショスタコーヴィチ御大の登場です。
ロシアの誇る近現代作曲家、クラシックの長き歴史の中でも間違いなくベスト10入りする大作曲家でしょう。
その作品の中で最も有名な作品がショスタコーヴィチ:交響曲第5番となります。

高校時代、吹奏楽部でユーフォニュアムをやっていた友人に薦められて聴いたのが初めてのショスタコでした。後々知ったのですが、実は彼が聴いて欲しかったのは4楽章であり、僕は陰鬱で灰汁の強い1楽章を我慢して聴く羽目に。
いやぁ、、ピンクフロイドの狂気も驚いたけれど、この"ショスタコ"も「何て暗くて気持ちの悪いサウンドなんだ」
とかなりゲッソリした記憶があります。

しかし、何故か惹き付けられるところがあったのか、結局何度も聴く羽目に。
僕の実家は釜石市、鵜住居町というところです。高校時代、駅前に本屋さんがあって、そのお店の小さなスペースにレコードが置かれていました。
クラシックは廉価版が置かれていて、僕の小遣いでも購入可能でした。
僕が買ったのは(それしかなかったからですが)ボーンマス交響楽団、指揮者はコンスタン・シルヴェストリという方でしたが、裏表紙に書かれたライナーノーツによると、急逝してしまいオーケストラは後任のことで困っている、とありました。

ショス・5」に関しては、この演奏が僕のメートル原器です。

レーナード・バーンスティン+ニューヨークフィルのものが有名ですが、僕はどうしてもこの最初に聴いたものと相性がいいようです。
不思議です。これを聴くと、あの頃の自分と出会えるからなのでしょうか?

1楽章 重く陰鬱で、まるでざっくりと刻まれた漆黒の彫刻をイメージしますね。こういう旋律を書ける作曲家の強い意志・自制心を感じ圧倒されます。後半になるとスネアの特徴的な連打でテンポ感を演出して、この楽章を色調豊かなものとしております。そのアレンジの妙に引き込まれます。

2楽章 一転して明るく奇天烈な3拍子系となり、まるでサーカスのピエロのようです。このセンスは他の作品でもよく聴かれるショスタコ節の定番的なところでしょう。

3楽章 個人的見解ではこの作品中最もインパクトの強いパートです。おそらくロシア人でないと、こういう雰囲気は造り出せないだろうという響き。ロシア特有の季節感溢れる楽章ですが、圧倒的に旋律が美しく、特にハープをバックに演奏されるフルートは秀逸と言えます。またこの楽章の本作品の中で、最も精神性の深いところを感じます。

4楽章 分かりやすい楽章。華やかさを持つフィナーレです。ロシアの大地を感じさせる雄大なスケール感。ティンパニをはじめとした打楽器、特に金管楽器のアレンジは素晴らしい!という他はないです。

それにしても、ぶつかり合う対旋律からあれよあれよとキレイに解決するラインの構成は、筆舌につくし難く、バルトークとの近似性を言われることが多いですが、やはり違うと思います。
ショスタコは若い頃、無声映画の伴奏を仕事にしていたそうです。

その影響が作品の随所に出ているのでは?と思うのですが、考えてみれば昔のアメリカ映画やTVドラマ、例えば「名犬ラッシー」や「逃亡者」等の音楽はショスタコのようであったと記憶しています。というか当時のアメリカの劇伴をやっていた作曲家は、ロシアの作曲家、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフ、更にストラヴィンスキー辺りから
少なからず影響を受けていたのでは?と推測されます。音楽と映画、音楽と絵画はどこかに接点があり、深くつながるところがあるのでしょう。

この交響曲の3楽章を聴いてみてください。
映画のワンシーンに自分が置かれているような気持ちになります。
一生に一度で良いから「こんな作品を書けたら」と何時も思います。
しかしこの当時のロシア(ソ連)社会の圧迫や、政治情勢のことがこの作品のキャラを決めている部分があるのは確かです。
音楽は、少なからずその時代の世相を反映するものだと思いますが、
本作品でも「政治の関与」つまり、、プラウダ批判のことが必ずと言っていい程、説明にあがる。
この曲によって当局の批判に晒されたショスタコは名誉を回復したとある。

事実はそうなるのかも知れないが、僕はそういうことを、この作品に持ち込みたくはない。音楽を行うということは、本来音楽本意であるべきで、政治がそこに介入することは音楽の存在そのものを否定していることに他ならない。
僕はこの信じられないほど素晴らしい作品を(ショスタコ本人がどのような気持ちで書いたにせよ)純粋にイメージ表現の具現化として受け止めたいと思うのです。

今日は少し重くなってしまいましたね。
でもたまにはいいでしょう♬