ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

Phew/VIEW・ハイファイなPhew? 

ユーザーコメントを真に受けるかどうか?それが問題だ!

さて前回のPhewの新譜評にて「宣伝部長」宣言みたいなことを申し上げたましたので、これは1枚だけのレビューでは物足りないわけであります。それにしても何だろうね、この「ハムレット」みたいな小見出しは?その裏事情からこの本評を切り出して行きたいと考えなのです。
さて、ジャケが気に入ったこともあり本作の購入に踏み切りました(大袈裟!)このアルバムのコメントに「ダメです。これを聴かなくては」と件が在り、それが"強く背中を押した"というのがもうひとつの理由ではありますが(更に大袈裟!!)。このアルバムの受止め方で、聴き手のサウンドの指向、音楽アプローチに対するセンスが分かるという気がします。そう言った意味で本作は「踏み絵」みたいなイメージがあります。まず、最も分かりやすいところで言えばリズムのアプローチです。ドラムが普通にバックを押し上げるPhewを否定するわけではありません。また、、ドラムのサウンド、組み立てるリズムの内容によっては、新しい作品である「A New World」を超えた魅力を得ることは可能かと思います。例えばその昔、彼のレッドツェッペリンがガレージで収録したようなサウンドをイメージして、尚かつドラムはオカズを排除した特異なリズムセンスをリピートするような方法であれば、、、。

つまり、本作の気になるところを正直に言わせていただくと、リズムのサウンドと、そのアプローチが彼女の芸風に今ひとつマッチしていない!と感じます。この「感じます。」がくせ者でございまして、、、。感じ方は十人十色。上記の通り「これを聴かないで何がPhewであろうか?」とまでおっしゃる御仁も居られます。
結局は好き嫌いの範囲に足を踏み入れると、その先は不毛な世界になってしまうのですよね。僕の場合、本作は素直に受止められる曲と、この曲は要らなかったのではないか?とさえ思うものと分けられます。そして全体としてPhewにはハイファイ(死語か?)の色合いは出来るだけ避けたい要素であろうと、勝手に納得するわけです。"音楽においてサウンドが解像度高く鮮明であるということが不可欠"というのは大いなる勘違いです。どのような世界にも例外は(実に小さな欠片かもしれないのですが)声高らかに存在します。音楽制作において使用される器材とアプローチはその時代の様々な環境と相まってアルバム全体のサウンドを決めるわけです。アルバム全体の持つサウンドイメージが数年から数十年後に振り返った時、どのように聴こえるか?というのは音楽家にとって、とても頭の痛いところかも知れません。例えば、サラリーマンも知っていたYAMAHAの名器「シンセサイザーDX7」の音は"造った音"であればそれは素晴らしい。しかし流行に乗り過ぎた音は古い音楽より更に古くさい。そういう音色を無頓着、無意識に使うのは演奏家の深い落とし穴です。本作を聴くとサウンドのどこかに時代の色彩を感じます。そこがせっかくのオリジナルの良さを損ねているのが残念なところです。「ダメです!これを聴かないと」と書かれたコメントは「何をして」なのか。それは彼女が(意外に)普通に歌っているところでしょうか?であれば、僕はこの聴き手さんとは聴いている部分が全く異なると思います。
彼女は「A New World」という僕のような凡人ではとても思い浮かばない「世界」を音というツールを使って造り上げました。その世界とは時間軸が取り払われて夢と現実がゴチャゴチャになったような実に不思議な迷宮のようなものです。音楽はその迷宮構築のためのツールであるというところに共感を持ちます。

今現在の彼女は一人のPhewという作り手に研ぎ澄まされた印象を受けます。アプローチはシンプルを極めて、それがよりタイトでありますが決して小さくまとまっているわけではない。音楽家はどうしても音を注ぎ込むものです。それがまるで宿命であるかのように。であるからこそ飾りを捨て去り鋭く透明な線となる音楽家には心より敬意を持つものです。

如何なる種の音楽であれ絶えず精進し、試行錯誤を繰り返し、無駄を切り捨て研ぎ澄まされて行くという道が朧げながら在るのではないか?と考えさせられます。本作を聴き、そして僕の最も好きな「A New World」を聴くとそのように彼女の音楽家としての深き試行錯誤のレールが反射しているようです。比較して眺めてみる、そして自分の好む方向を認識してみるというのなら「VIEW」の立ち位置は興味深いものです。どのように感じるか?この踏み絵をどのように見るか、踏みつけるか、避けて通るか、最初から見ないか(笑)それによって自分の好む「音楽の造られ方」が分かるかも知れない。どうぞアナタもPhewの迷宮に足を踏み入れてください。