ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

JAKOB BRO / STREAMS ドラマーが違うだけで……!

JAKOB BRO / THOMAS MORGAN / JOEY BARON
STREAMS

最近聴くのは、この辺ばかりなんですよね。ECMのこの辺。前作との大きな違いはドラマーがヤン・クリステンセンからジョーイ・バロンへと変ったことです。
前作の方が浮遊感があり語弊を恐れずに言ってしまうとマニアック、今回はもう少しニュートラルな感じとなっているので、比較すると面白味という点、灰汁の強さでは前作かと思います。しかし、ポイントなる演奏内容においては、どうしても本作の方に軍配が上がるでしょう。ギターアプローチの違いを指摘する方もおりますが(確かにその通りだと思います。)、僕はそれ以上にドラマーの違いが大きいように感じました。タイトル通り、この違いがとても大きい。
ライブ現場で、客受けする要素として最も大きいのはドラマーの力量だと僕は思います。どんなにピアノやギターが気の利いたことをやったとしてもドラマーさんが今ひとつであると、そりゃもう音楽にならない。
本作のジョーイバロンの演奏を聴くと、そらもう目からウロコな演奏で、パート毎に完璧なフレーズとアイデアを叩き込むわけです。
残る2人のメンバー、もしくはプロデューサーのマンフレート・アイヒャーが「音楽が望んでいるであろうドラマー」を欲したということになります。そりゃそうだ。僕だって間違いなくそうします。

ヤン・クリステンセンの演奏にもとても良い味わいがあるので、そこは実に惜しいところだとは思います。ただあれば渋過ぎて理解には特定の時間を要する(僕の場合は)。何回か聴いて「あれ?もしかして、これ意外にイイのかもよ!」みたいな。

この作品は、JAKOB BROというギタリストがなかなかのメロディメーカーであることを証明するかのような内容です。
しかし、だからと言ってサウンド的に面白味がないのか?と言えば、そんなこともなく、聴いて行くと、歪み系でありながら素敵な音も聴ける。
それは、バッハ的な対位法を使いつつ魅力的なタイム感覚で演奏される「Full Moon Europa」で顕著です。このサウンドの構築は流石です。ベースに朗々とルート中心に展開させつつ、ギターはリズムに幅を持たせた歪み系の音で、陰影の深いテーマを訥々と奏でる。これはたまらない魅力(世界)があります。
何度か繰返して聴くと、このユニットはパッと聴きはサウンド指向で、環境音楽的のようにも聴こえるけれど、その実態は、緻密でしっかりとした構成力のあるバンドであることが理解出来ます。前作から続く浮遊感の在る音、リズム幅が広いところも、よく聴くとインテンポから創出されており、実はとてつもないテクニックを持ったユニットであることが分かって来ます。
その分かって来る過程がまた囁かな楽しさが在ります。
調度これを2度目に聴いた時は、帰省した岩手県釜石市から東京に戻るところでした。釜石駅から急行「はまゆり」が、ゆっくりと離れ始め釜石の町並みを左に見ながら、パノラマが回転するように郷里が離れて行くと、あまりにそのサウンドがハマってしまい目頭が熱くなってしまいました。因に曲は1曲目の「Opal」でした。今でもこの作品を耳にすると「はまゆり」に乗っている気分になってしまいます(笑)。「音楽が持つ人間の心に対する作用」を考えないではいられないです。
こういう音楽は真に美しいのだと思いますし、また奏でている彼らを敬愛せずにはいられません。このアルバムが世に出て良かった!と心から思います。今年前半、飛び抜けて長い時間を共にした音楽です。
僕の囁かな願いは、前作「Gefion」の名曲「Oktober」、ヤン・クリステンセンのリズムが転んで残念だった「And they All Came Marching Out or The Woods」等もリアレンジしてジョーイバロンで再録してみてはどうか?ということです。
ライブ収録でも良いのですが(Youtubeで聴くことは出来ます。案の定、素晴らしい!)是非お願いしたいと思います。