今でも聴きたくなる・イエス/危機
YES/危機〈Close to the Edge〉
本作は、あまりにベタなアルバム紹介ってことだと思う。最近すっかりジャズ方向に舵を切った自分ではありますが、だからと言ってこれまで好んで聴いて来た作品にそっぽを向くというのも何か人情味に欠けるというか「手のひらを返す」的な感じでどうも具合が悪い。プログレッシャー達のご機嫌をとるわけではないが、ここで一発プログレを代表するアルバムと言っても過言ではない本作を取り上げたい。本作の概要、また知識的なことをベラベラとまくしたてても、それは手垢が数十センチは積もっているくらいの情報が累積されたイエスの代表作ということになり、今更であります。なので切り口をもう少し違った方向から攻めてみますか。
このアルバムの肝となるのは、個人的見解(否!このように聴く人は少なくないか)ながらエレクトリックベースである。クリス・スクワイアの描くライン、そしてリッケンバッカーの好みの分かれるであろう音色にある。残念ながら故人となられた名手であるが、一瞬でこの人とわかるベーシストも珍しい。他にと言えば、ジャコ・パストゥリアスかスタンリー・クラークくらいだろうか。
ギターの領土を浸食するような、えげつないベースであるが、結論を言うと僕は好きな方だ。このギターのようなベースと、コン、コン、とハイチューニングというのかこれまた独特なビル・ブラッフォードのドラムプレイ。このリズム隊があっての本作だと思う。世界に数在るドラム+ベースの組合せの中、突出した個性と言い切れる。
勿論、僕の同業者(と言うにはあまりに失礼ではある)であるリック・ウェイクマンのキーボードプレイも相当素晴らしい。ソロフレーズ、グルーヴ、まあ完璧な曲に対するご奉仕なのである。
うちのバンドのドラマー・佐山さんに言わせるとビルブラのドラムの良さが分かり難いのだそうだ。そして彼のドラムはドラマー以外の楽器奏者からの指示が多いらしい、ということを聞いた。
なるほどなぁ、、と思う。
それはおそらく、彼がドラマーとして演奏しているというよりは、作品を理解してそこに最大公約数的に合致した内容の音楽を紡ぎ出しているからではないだろうか。
つまり、ある意味ドラマーらしくない。通常のドラマーさんとは、バンドに対する考え方が違う部分があり、それがあの例のスタイルに表出しているのでは?と思う。
他楽器奏者(僕もそうだけれど)からの指示が集まるのは、その辺のことと関係しているのではないかと推測します。
言い換えると「キーボーディストが頭を捻って愛用のリズムマシンを打込んだその通りのことを叩いている」ようなイメージでしょうか。
まあ、よく聴けば彼なりのグルーヴが感じられないこともないとは思うのですが。
そして忘れてはいけません、ギターです。このスティーブ・ハウのギター。高校時代にイエスを初めて聴いた時には、その良さが分からなかった。キレイにディストーションがかかるような音じゃないし、フレージングもロックとは少し(かなり)違う。
イエスを気に入るまで時間を要したのは、ひとつこのスティーブ・ハウのギターに大きな原因があったのは確か。
しかし、今、プログレのギターと言えば、この人かロバート・フィリップくらいしか思い当たらない。そのくらい個性的で魅力的ではないだろうか。
最近、ようやく馴染んで来たのがヴォーカルのジョン・アンダーソンである。この透明感のある少年声が、何だかロックに馴染まないように感じたわけです。
しかしです!イエスのヴォーカル、この声でなくて誰が?とも思う。これがジョン・ウェットンだったら(笑)「そりゃ違うでしょうよ!」と。
このようにイエスというのは(僕にとっては)どうにも最初は駄目だったというメンバーがいるわけです。それは他のバンドではなかなかないことであり、別な言い方をすれば、だからこそ長きに渡って飽きが来なかったとも言えるわけです。
ただ、他のプログレユニット同様、イエスも僕にとっては2枚あれば十分かなと思います。ドラムがビルブラでないと、、というのは今もって変らないので、本作と前作である「こわれもの」ということになってしまう。3rdという声もありそうですが、演奏の粗雑なところが散見されて受付けないのです。こんな時はいつも「もっと大らかに聴こうぜ!」と思うのですが、持って生まれた面倒な性分は治療が難しいらしい。
「危機」はどの曲が一番好きというのはなくて、カタマリ1つとして聴こえて来ます。
アルバムというひとつの作品、それはジャケットデザイン、全体基調であるサウンド、曲順、曲をどのように移行させるのか?という境界線の設計からなる構築性など要素は多岐に渡ります。
それらが全てが徹頭徹尾ある方向をしっかりと見据えている。
ピンクフロイド「狂気」か、イエス「危機」か、、という双璧具合なわけです。
特にプログレに興味のない方でも聴いて損のないアルバムだと思います。
機会がございましたら是非!!