ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

中学時代を彩っていた「トワエモア」

トワエモア/A TIME FOR US

そのアップライトピアノは小学校4年生の時、引越をする1年前アパートの2階に運ばれたYAMAHA/U1だった。

父の実家に家族で移り住み、僕は随分と田舎に来てしまった(つまり都落ち感、、笑)を感じていたわけです。

今思えば、岩手県釜石市内で引越をして、田舎の中で移動しただけですから、その大袈裟な感性は既にこの少年時代に育まれていたと推察出来ます。

さて、当時YAMAHAで一番小さな初心者用ピアノは、居間の窓側に対して直角に置かれました。つまり風景を見ながらピアノを弾くことが出来たということになります。

庭を目前にして、その後ろ側に雄々しい山々の稜線が見えますが、それは殆どの場合、山裾に霧が発生しており、岩手のどこでも見られる景色とは言え何と恵まれた音楽環境であったか、と思います。音楽を習熟するという点ではこの中央からあまりに遠過ぎた町で生まれ育ったことが後々自分を追い込むことになるのですが(紆余曲折はありましたが)今は単なる過去の残骸でしかなくなりました。もはや音楽は根源的かつピュアなものとしてそこに在るだけです。この窓に直角に置かれたピアノで中学校1年生の僕が弾いていた曲のひとつが「虹と雪のバラード」です。この曲は札幌オリンピックに合わせて制作された企画が先行した曲ですが、そういう説明的なところを抜かしても充分な存在感があります。イントロの旋律、トロンボーンの少しチューニングの悪いところまで何だか哀愁を感じてしまうのは、過去を美化する僕の悪い癖なのかもしれませんが、治癒不可能な浪花節なところです。トワエモアは15年前ほどから活動を再スタートさせておりますが、

Youtubeにアップされているお二人の歌を聴くと基本変わっていないのが何ともホッとさせられるし、あまりの懐かしさで(あのどうしようもなかった)中学時代にワープするようです。芥川さんの声が少しばかり濁声になり、白鳥さんも高音が出難くなりましたが、そこを年を重ねたふくよかさ、温かな振幅とも言えるアプローチでカバーしていると思います。

おそらく打込(プログラミング)など、今風?な制作過程を経てリリースされた本作ですが、そのお二人とサウンドのギャップが意外に楽しいです。

「苺白書をもう一度」というユーミンの名曲をカバーしておりますが、これが白鳥さんの声にハマっており、何とも言い様のない感動を覚えます。僕はこの白鳥さんの声が、国内女性ボーカルの中で最も美しいと思います。

そして60歳をこえられて(失礼しました!)あの堂々たる歌いっぷり。

頭が地に付きそうです(笑)

本作には「虹と雪のバラード」も入っておりますが、アレンジが全く異なります。オリジナルである楽団バックのテイクに拘る音楽ファンも少なくないと思いますが、僕はこちらのバージョンも決して悪くないと思います。上記にも書いたように、昨今のDAW**(デジタルオーディオワークステーション)を使ったカッチリとしたデジタリィな質感と二人の歌との妙な断層が楽しいのです。捻くれた聴き方とは思うのですけれど。

ということで本作は愛用iPodに入れて持ち歩き愛聴することでしょう。余談ながらジャケット写真は、若きトワエモアが「ある日突然」のジャケで使用した同じ場所ということになるようです。これを知ってジャケットを眺めると"ぐっ"とくるところがあります。この二人の表情、、遠い日に想いを馳せ、そして未来へと流れ行く「時」を感じておられたのでしょうか。

 

僕とトワエモアはイメージがつながらない同業者や音楽ファンがおられるかも知れません。しかし、中学生までの自分は紛れもなくこうした国産歌謡の中から作曲の下地となるハーモニーを(手探りで)覚えた事実があります。コテコテの変拍子メシアンをはじめとする現代音楽を標榜する自分ですが、根底に流れるのは本作のようなストレートで分かりやすい温かな音楽です。

DAW:生音である声、管楽器等とデジタル楽器であるシンセサイザー、またエレキギターという出音の仕組が異なる楽器を、PCにインストールした各種ソフトにおいて一元管理し、下地となるオケからヴォーカルまでをアプリに内包されるシーケンサーという時間軸(小節数軸)に音データを記録、ミックスダウンから、マスタリングまでを可能とした現代においては主流となる制作方法のこと。