ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

"作曲家" チック・コリア / 妖精

チックコリアの中では最も好きな作品

チックコリア さんがお亡くなりになりました。自分でも驚くほどロスが激しいです。まいったな、ライブ直前なのに。でも、これでは御大に叱られるでしょう!自分の柔な精神に喝!を入れねば。


本作を初めて聴いたのは高校3年生。脳内には女の子と音楽しかなかった良き時代となります。NHKFM「朝のリズム」という番組がありまして、一瞬でスピーカに耳が行ったことを覚えております。すっかり入り込んでしまい学校に遅刻してしまいました(笑)
そして何故かこのアルバムを勝手に「ELP」の新作と決めつけて、しばらくは彼らがジャズ方向に舵を切ったものと考えておりました。バカですねぇ、、そしてそんな自分が可愛い
。でも、気持ちは痛いほど分かるというもの。この作品はおそらくチックの数多き作品の中で最もプログレに寄った内容と思われます。勿論、チックのあの透明感溢れるピアノの音は健在であり、ジャズ的な要素が少ないわけでもない。しかし、それでも全体を聴き終わった後に残るのは作・編曲家としての音楽家・チックコリア、ジャンルを脱したニュートラルな理想的な音を聴くことが出来ます。
僕は今もこのアルバムの魅力を感じることが出来ます。
聴く時間帯で言えば夏の早朝でしょうか。まだ涼しげな短な時間帯。冒頭のゲイル・モランのヴォイスが美しい導入から2曲目のリズム隊とピアノの織り成す颯爽としたサウンドの流れ方が何とも素晴らしく、上手な形容が出来ない自分の言葉足らずが悲しくなります。
サウンドが古く感じるという理由から評を下げる方も少なくないですが、僕はそうは思わない。サウンドを支える最も大切な要素は何と言ってもベースです。

このベースには、アンソニー・ジャクソンエディ・ゴメスというエレクトリックべース・ウッドベース、それぞれの世界を代表するベーシストを配しております。そして時折("ムーグ"で弾かれたのであろう)シンセベースが聴こえます。このベースのカラフルなサウンドとピアノのバランスが、他では聴く事の出来ないグルーヴ感を押出していると思います。
この時代「マイ・スパニッシュハード」「マッドハッター」と本作を合わせてチックコリア「フュージョン3部作」と言われたものですが、僕はこの「妖精」を最も(他二作も傑作ではありますが)好みます。
それにしても、ここまで作品力に注力したアルバムはチック・コリアとしては珍しいです。ジャズピアニストは通常、演奏を聴かせるということが主眼で、作品の力で押すというのはなくはないけれど稀な事と言って良いかも知れない。主題においては美しい旋律を持つものも少ないないのですが、、。
本作は、チック・コリアが作曲家としてアプローチしている姿が映し出されています。その辺りが、僕がELPと勘違いした理由なのかな?と思いますし、僕が最も好きな作品がコレ!というのもまた同様では?と推測しております。
ライナーノーツには「最新の16ビートを駆使するスティーブ・ガッド」(笑)という(正確な文ではありませんが)説明がありましたが、こういうところは時代を感じさせるところです。またシンセサウンドもまた同じく。
しかし、作品としてその内容をみたとき、この珠玉の楽曲達は今現在でも生き続けることが出来ると思いますし、新しい音楽を渇望している音楽ファンにも是非触れていただきたいと願うものです。
表層的な部分だけではなく、そのあらゆる要素、作品に寄り添う緻密なリズム隊と、魅力的なハーモニーと旋律。
そして全体を一塊で眺めたときのアルバム「妖精」というイメージ。それは、チックコリアの他作品では見受けられない確固たるものを感じます。
ジャズは、メンバーを解き放つものです。本作はチックコリアの作品のために演奏しております。それはクラシック・現代音楽のようでもあり、ジャズと呼ぶには少し違うところも感じられますが、しかしジャンルというものに縛られない自由な発想は音楽家であれば必須のものかも知れません。
ただ、難点をひとつだけあげれば、コンセプトがあまりにハッキリしているので、聴く側のイメージが限定されるという部分があるかも知れない。
(しかしこのイメージが限定された音楽を好む方も多いのです。それは結局、音楽の好みということになります。)
妖精はたまに聴きたくなる。それはちょうどイエスの「危機」が聴きたい!というのと同じくらいの頻度です(笑)それも無性に聴きたくなる。どうしてだろう?サウンドに秘密がありそうだけれど、何れにせよリリースされてこれだけ年月の経過したアルバムとして凄いことだな、、と尊敬するしかない自分です。チックコリア の足元にも及びませんが、少しでも近づけるように精進します。チック、今まで楽しい音楽をありがとう!   (2021.02.13 加筆・修正)