ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

チックコリアのバンド『RTF』/浪漫の騎士

懐かしいだけではない!現在進行形として聴くべき?

チックコリアのバンド、あまりにも有名なRTFリターン・トゥ・フォーエヴァー)の代表作となる。またこのアルバムを最も良い出来と評するファンもまた多い。いつもズレている僕の「現在最も聴いているアルバム」です。RTFは3期に分けられますが、こちらは黄金期と言われる2期ということになります。少しだけ在籍したアール・クルーが脱退して代わりにアル・ディメオラが加入した、その辺の時期となります。
作品はメンバーが各自1曲づつ、残りをチックが書いております。例えばスタンリークラークの演奏やフレーズ要素にはソロアルバとしては最も成功作であろう「School Days」との近似性を伺わせます。今、聴くとそのテクニック的な側面においてはさして驚かない。しかし、それはあくまでも「メカニカルな側面において」という"但し書き"が付きます。現在、宇宙人かと思うようなアーティストがゴロゴロしているわけですが、その内容はスピードであったり、ユニゾンで奏でられる高速フレーズだったりするわけです。そこに果たして音楽的な裏打が在るのか?というところは大切なところではないか、と思います。むしろ本作のポイントは、その奏でている内容そのものにあります。全ての楽曲においてその音の使い方とリズムの割り方には興味が尽きません。本作をプログレと近く感じる音楽ファンも少なくないのも(その手法において)理解出来ますが、やはり似て非なるものでしょう。このメンバー配置において初めて可能になった音の構築という気がします。
そしてそれは、過去のモノとして扱うには勿体ないほど魅力を称えている。全体として軽快かつ明るくコミカルな要素もあり(だからと言って音楽性までが軽くなっているわけではないです)チックのアルバム中でもとりわけ特長の掴みやすい内容となっていると思います。何回か聴いて行くと心に残るフレーズが出現し、次の段階では噛めば噛む程という"スルメ具合"となる。チックは生ピも弾いておりますが、この時代のピアノの「ハイ上がり」な音質の傾向は、まあ仕方ないとしても、流石に弾かれる内容は素晴らしく、表現したい事象とテクニックとが「符合」している希有な例であろうと同業者ながら溜息が出てしまいます。得意とするラテン的な手法からラヴェルの連打のようなクラシックテクニックまで呆れてしまいますが、それがテクニックを超えたところに在る表現を感じさせるところが素晴らしいです。また、ファンクとしてアレンジされた楽曲であっても展開部においては、茫洋とした印象的なパートが出現したりして、気難しい音楽ファンの耳であっても決して飽きさせない。このアルバムがRTFでは最も好き!というジャズ・フュージョンファンの気持ちが痛いほど分かるところでもあります。

しかし、Amazonのコメント欄を見ると「機械的な感じで好きではない」とか「自分が望むジャズ・フュージョンではない」と言った否定的な意見も散見され聴き手というのは実に多彩なものだな、と感心させられます。正直なところ「もう少し聴き込んでいただければ」と思うのですが。
これまで聴いたチック・コリアの作品では「妖精」「THREE QUARTETS」辺りを好んでおりますが、相当に遅い出番?ながら本作が3番手に上がってまいりました。このアルバムの懐の深いところは「聴かれ方」を選ばないところ。ウォーキングのBGM、カーオーディオにも向いております。聴き込むことは勿論ですが。
そのひとつの理由としてレニー・ホワイトのドラムのサウンド、フレージングがポイントではないでしょうか。彼のドラムは昔から大好きです。
ビリー・コブハムに似たところもありますが、あそこまで大袈裟ではなく(あれはアレで凄いわけですが、、。)タイトでとても整理された音、という気がします。
音数はもの凄く多いですが、リズムが正確で引き締まっており音と音の間がキレイに空いている。隙間がキッチリ取られているドラム演奏はうるさく感じないものです。チックが長く共にしたのもそういった同じく音を埋めてしまうキーボードとの相性を考えたからではないでしょうか。ギターのアル・ディメオラとキーボードのバランスもとても考えられており、エレクトリックギターが入ることから危惧される?「ギターバンド」になってしまうことを上手に回避しております。このギターが居ながらその利するところは、しっかりと前面に出しておいて、しかし全体を聴いた時にメンバーの取るべき「パイの配分」が等分に感じられるところが緻密な作業を連想させるところです。僕が本作を最も評価するところは、そのバランスにあります。

RTFは紛れもなくチック・コリアが率いたバンドでした。ジャズ・フュージョンという演奏に比重が傾く分野であってもバンドとして合奏というものを追込み、ライブで作品を披露するというニュートラルな音楽行為。これだけキャラの濃い面々ですから、そのチックの統率力と実力に敬服するのみです。〈2017.9.10 加筆・修正〉