ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

ケイト・ブッシュ「ドリーミング」/ その切れ具合

歌とサウンドのバランスにおいて、、。

ケイトブッシュのリリースしたアルバムの中で本作が最も好きか?と言われれば正直2番手くらいかな、、と思います。このアルバムを初めて聴いたのは実は一週間程前となります。ケイトブッシュの熱き音楽ファンには叱られそうですが、昔、紙一重的(狂気と現実の境目に在るような)なアルバムという評を目にして気の弱い僕は何か恐ろしい世界を想像して腰が引けていたのですね。イメージというのはある意味恐ろしいものです。しかし、実際聴いてみると、その評価はドンピシャとは言わないまでも確かに当て嵌まるところがあるような気がします。それほどこのアルバムは(彼女の作品群においても)突出してインパクトが強い!音楽に対して何と言うのか押し倒されても良い(笑)という生粋のMの方には向いている傾向があります。まあ、、それは半分冗談として。実際の音楽の話で行きましょうか。1週間前に初めて聴いたとは言え、毎日何度も聴き返しておりますから、既に数十回はこの"夢の世界"にアプローチさせていただきましたが、本作の特長は、ケイトブッシュのヴォーカルとしての側面が強く押出されている点にあります。その何とも変幻自在な「声」と、楽音の混然一体具合に引き込まれます。比較的大人しい作品であっても、それは当然、一筋縄では行かず、仕掛けはあちらこちらに配置されており、この仕掛けの謎解きだけでも楽しめそうです。正しく長きに渡って愛聴出来る名盤でしょう。

このアルバムと比較すると最近の彼女はやはり力が落ちた!!と認めざるを得ない。もし本作を超える作品を今、リリースするのであれば、思い切ったサウンドアプローチや共演するアーティストにも工夫が必要でしょう。

音楽全体の基調になっているのは「魔物語」と同じように、柔らかでコーラス過多なベースであり、またアイデア満載のサンプリングの自由奔放なセンスとなる。この辺りを聴くと一体、DAW*等に代表される制作の進化って何なの?と文句のひとつも言いたくなる。
音楽において中心に位置するのはアーティストのアイデアと力量であり、テクノロジーはその下に入らなければ、結局出来上がるモノってのは知れている。ケイトブッシュもテクノロジー好きなアーティストではある。一般では、とても手のでなかったフェアライトも初期の頃から使用していたという話も聞く。しかし、大切なのはそれが、しっかり彼女のツールになっているということだ。本作でも、そういった機材の使いこなし、それから彼女以外の男性ヴォーカルの使いこなしにも大きなポイントが在る。ケイトブッシュは意外に自分以外のヴォーカル(ヴォイス)を混ぜ込むことを好む。それはおそらく、声の重さを良く知っているからに違いない。冒頭から変則的な6拍子と4拍子で切れ込んでくるが彼女には、こうしたリズムアプローチなど何でもない。普通に自然に歌い切るし、またそのフレーズも実に特長的だ。少女から老婆までを演じるようなヴォーカル。つまりは人の人生、人間模様を、一人で演じ切ることが出来るような特殊なヴォーカルだと思う。
猫の目のようにクルクルと変る僕の評価だが、本作に限って言えば、微妙に緩い曲線を描くだけで、その印象は変らないものと思う。面白い要素に気が付いたり、彼女のヴォーカルの機微に触れて、ふと忘れていたことを思い出したりと、、自分の傍に置かれて行く作品だと思います。ひとつだけ気になるところがあるのは、その歌い方でシャウトするところでしょうか。コレは個人的な好みとなるのですが、少し僕にはキツく感じられます。もう少し柔らかな方向でも良かったのに、、!と思うのですが、これは曲の方向性もあることであり、難しいところかも知れません。こういった自分の好みと相反する僅かな要素から、リリースしたアルバムの中で2番手となっているらしいです。若干ベタですが、僕の中でのベストアルバムは2枚「魔物語であり「Hound Of Love」であろうか、と思います。本作、頭ひとつで次点!と。でもこの順番は音楽ファンによって、どうにでも変るところでしょう。
ケイトブッシュは僕にとって女神みたいなものです。
今がすこし落ち目でも、過去にこうして凄いのが転がっております。そして先々、きっとその年齢でしか出来ない傑作を生むことでしょう。

心底期待しております!!

DAW:デジタルオーディオワークステーション、という音楽制作の中心に位置するコンピュータを中心に置く制作フロー。使用されるソフトは数多あり、勿論代表的な数種は存在する。生音とシンセ、サンプラーというデジタル機器をシーケンス上で自由に混在することが出来、尚かつ生音に関してのデータの修正も自由に行う事が可能となる。つまりは一音からの削除、ピッチ修正、移動、コピーと。古来から連綿と受継がれて来たMIDIのエディットにおいても進化しているが、このプログラミングに関してはソフトにおける差異は大きく、バンドルされているソフト音源の内容と共にソフト選択の重要な要素となっている。