ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

音楽に世界が在ると言うこと/            ケイトブッシュ・Hounds Of Love

ケイト・ブッシュでは一番好きなアルバム

ケイト・ブッシュは僕にとって女神であることは確かだ。
彼女の中では新しい作品と言える「50 Words For Snow」では個人的見解ながら力の衰えを隠せなかったと思う。これを彼女の新しい方向と捉えるなら別かもしれないけれど。意外に評価するファンが多いので、僕ももう少し聴いてみたいと思います。
その彼女の作品群においては中期を代表するアルバムがコレと言って良いかもしれない。中期と言っても1985年が中期なの?と疑問が出そうだけれど、あくまでもイメージとして。
僕の場合1980年リリース「Never For Ever」が起点となるので、本作がそこから5年後にリリースされていることから「中期」なのである。まあ、勝手な解釈ですよね。
小見出しにある通り、彼女のアルバムの中では本作が最も好みということになる。

僕がこの作品に好感を持つ理由は、そのサウンドのデティールが作品に溶け込んでおり、柔らかな質感を持っていること。それでいて音楽自体は鋭い感性で溢れかえっており、そのコントラストはとても他のアーティストでは真似出来ない温度感を持っている。ケイトブッシュ製作総指揮、監督、主役、脇役、照明、カメラ、そして音楽と、全てを彼女ひとりで担当したひとつの映画のようなアルバムだと思う。M4「Mother Stands For Comfort」からM5「Cloudbusting」のくだりが最も僕の好みであり不思議なほどの共感を持つ。
ヴォーカリストとしての凄み、声そのものだけを抽出すると「ドリーミング」に軍配が上がるかもしれない。しかし、本作の歌い方には、何と言うのかここまでの作品にはない気高さみたいなものが感じられて胸が熱くなる。
2011年「50 Words For Snow」はおそらく「深い試行錯誤の結果」ということだろうが、意外なほどあっさりとしたアレンジに終止している。ピアノ中心で、リズム系もごく一般的なアプローチと言える。しかし、こうして中期の傑作を聴くと(今、聴きながらコレを書いております。)彼女に関しては徹底的なプログラムと凝ったサウンドアプローチ、もっと下品な言い方をしてしまえば"コテコテに加工された音楽"こそが、そのイメージには馴染んでしまうような気がする。しかし、それがどうしたというのだろう。新しい世界を構築するのにNGな制作方法などあろうはずがない。ハッキリとしたイメージ、ヴィジョンを持っているのであれば、尚更のこと。
それにしても、このヴォーカルは呆れるほどリズムマシンに馴染んでいる。これほどまで、人工的なリズムマシンを逆手にとって成功した例と言えば、クラフトワーククラフトワークリズムマシンというよりはリズムパッドと言った方が良いのか)とゲルニカくらいしか僕は知らない。
乱暴に結論付けると、こうして様々な要素を探ってみるけれど、自分がこのアルバムが好きで仕方のない理由。その最もなところは、単純に旋律の描き方と寄り添うハーモニーの美しさによるものだと思う。音楽を更に持ち上げる数々のサウンドメイクは、その作品の優れた根幹があって初めて力を発揮するものだと思う。
今、曲は「Jig of Life」が流れている。
溜息が出て来る。一体、この方の頭の中はどうなっているのであろうか。
音楽を聴いて、世界を感じることが出来る作品は残念ながらそう多くはない。世界を感じるということは、その音楽と共に旅に出るということだ。たとえ自分の部屋で聴いていても、心は別世界を彷徨っている。それは抜け殻の自分を置いて、幽体離脱するのとどこか似ている。音楽をIF(インターフェイス)として自分が訪れたい世界(景色)を眺めることが出来る。ケイト・ブッシュを初めて聴く方に、本作を推薦したいと思います。珍しく?自信を持ってオススメです!