ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

Civilized Evil / JEAN-LUC PONTY

懐かしさだけではない、JLPの隠れた名作。

でもまあ、やはり懐かしいわけだ(笑)。これは音大時代、狭苦しい4畳半で聴いていた憶えがあります。当時はレコードですから、この不気味で判断の難しいジャケがピアノの上に飾られて存在を強めておりました。CDジャケとなると、むしろ強いクセが抑えられてスッキリ見えるのは不思議です。
この部屋にはアップライトとしては限界までサイズが大きいヤマハのUXを置いて僕の居場所など無いに等しい状況でした。
母が一度上京して来て、まるで土の上に寝ているようだ!と涙ぐんだのは笑うしかなかったですが、実際これまで住んだ中では群を抜いて最低なアパートだったように思う。この20歳前後の自分がこのアルバムに気持ちが行ったのは何かきっかけがあったのだろうか。当時既にバンドはやっていたし、フュージョンに偏っていた時代だから、イメージとしては分からないではないけれど。結構マニアックな選択ではあったと思うし、何となく買ったのではないことは確か。当時知り合っていたギターのTさんや、大学の友人Oさん(どちらも1歳年上だった、僕は年上の方は意外に相性が良いのである、どうしてだろう?)から教えられた可能性が高いか。
さて数十年ぶりにCDとなった本作を聞いてみます。
心を動かされるのが今持ってM3に配置された「FORMS OF LIFE」であることは、やはり変わらない。この作品だけ浮いていると言っても良いかも知れない。ドラム、ベースを排してバイオリンの多重録音+キーボードという構成。自分の基本嗜好が殆ど変わっていないことが確認出来る作品。作曲の側面から多大な影響を受けたことが、こうして改めて聴くと分かってくる。
ジャズ・フュージョンのアルバムとしてはあまり耳にしないタイプの作品がラインに入っていることが、とてもJLPらしいと思う。
バイオリニストであること。
当然だが、これが要素としてとても大きいのだろう。
ジャズでもプログレでもバイオリンは登場頻度が高い。特にヨーロッパではバイオリンの入っているユニットはそれだけで受けが違って来ると昔居たレーベルのMさんに伺ったことがあるが、しかしJLPの演奏の質は他のバイオリニストとは一線を画している。
その後、お付き合いしたバイオリニストの太田さんは、このJLPのバイオリンにはとてもショックを受けていたようだった。その音楽内容というより純粋にバイオリンの技術的なところであることが僕には面白かった。
その、シンセを弾いているかのような音程(ピッチ)の無機質な程の正確性、ただでさえバイオリンには難しい高速アルペジョでも全く破綻しない。
演奏仕事の帰り道、車中で聴かせたところ小声で「こりゃすげーわ!」とか「何コレ?普通こんな風には弾けないんだけど!」とか、ブツブツと呟いているのが僕には可笑しかったのだけれど、本人のショックはひとしおだったのでしょう。確かに、このどちらかというと初期の作品ではあってもそのテクは完成されており、旧作だから割り引いて聴く必要は全くありません。しかし、それは同業者が観る指点です。僕がJLPに惹かれるのは、バイオリンの演奏内容にもありますが、作られる音楽の風合いみたいなものでが感じられるからです。優れた演奏だけを取出すなら、F・ザッパであるとか、マハビシュヌオーケストラとかこれだけの腕前ですので、あちらこちらに顔を出しております。
本作もそうですが、彼の作風は一貫しています。それはもう面白くないほどに一貫している。それは、彼が好む音の所作、ハーモニーの組み立てに「バカボンのパパ」のように”コレでいーのだ!”という流儀があるからです。
それは品格があり、温度感があります。コードプログレッションには微かに少し野暮ったいような独特なセンスが散見されますが、それもまたキャラを形成する不可欠な要素と思われます。もしかすると確信犯的に、それを分かって使っているのかも知れない。
本アルバムは、ハッキリと前半の方が個人的には好みです。M4辺りから、かつてのフュージョンてこうだったよネ!という風合いが強くなり、ラストM8で前半を取り戻して終わるという印象を受けます。聴く側によってどの辺を好むのか、分かれそうです。昔から出演させていただいております某吉祥寺ライブハウスの対バンさんのオリジナルには本アルバムと類似する音楽センスに触れることがあり興味深いです。もしかするとプログレアーティストには隠れJLPファンが多いのかも知れない。
JLPのアルバム全体にキーボードの存在が大きいという気がします。本作も例外ではなく、センスとしては流石に古さを感じますがバイオリンを支えるに十分なサウンド・フレーズを作っていると思います。ピアノよりもエレクトリックを好む音楽ファンにもアピールするかと。懐かしさだけで聴くのではなく、良質なBGMとしてウォーキングのお供に頑張っていただきましょう!