ピアニスト・タカの脱線CD評

FLAT122キーボードとして活躍・ピアニスト・タカ音楽評

加藤登紀子・坂本龍一/愛はすべてを赦す

坂本センスは黒子に徹したところで冴える!
これを聴いたのは随分昔になる。LPで聴いたので理想を言えば今、買い直すとしたら迷わずLPとなる。しかしプレーヤーは数回の引越のどこかで処分したのか今はなく、まずは先行投資が必要となり財務省「嫁」を通さないとヤバいこととなる。音大に入るために1浪したところで友人となったOさんは僕よりひとつ年上で、声楽科に入ったが、この部門の輩からすると随分と特殊なタイプだった。クラシックは勿論、現代音楽に精通しジャズやポップスも渋いところをおさえており、本アルバムはその1枚ということになる。この作品は彼が僕に教えてくれた数々のアルバムのなかでも取分けお気に入りの1枚となった。その理由は分かりやすく、つまり加藤登紀子のヴォーカルは当然の事として、坂本龍一さんのセンスが素晴らしい!ということになる。
これは私見ですが、坂本音楽の最良のポイントは意外に小さなCMとか歌謡曲のアレンジ、映画音楽、そして本作のように黒子に徹してピアノアレンジからシンセ、サンプラー、リズムボックスまで駆使して仕上げるそのトータルな才能に在ると思います。全体としては、透明感のあるスッキリとした聴きやすいサウンドにまとめられているのですが、実は作業量は多く、ピアノ以外にも適材適所にYMO的なアプローチが見られます。これは、別ページで紹介した大貫妙子のロマンス辺りとも共通した世界でしょうか。
音楽ファンのコメント欄では、加藤登紀子がこういった三文オペラを取り上げることを意外に感じている方も散見されますが、昔からシャンソン歌手と近似性を感じるところからクルトワイルを歌うということ自体僕個人、自然なことのように思えました。
意外性ということではむしろ、坂本教授のシンセサイザープロフェット5かな?)とか、リズムボックスはおそらくRolandTR606(勿論、黎明期の旧型、銀色ボックスのモノ)を使ったりというところがゲリラ的で楽しい。加藤登紀子と言えば僕の勝手なイメージとしては、どうしてもアコギ一本とか、アナログ生というところになります。
坂本さんは、それを逆手にとって"外し"でサウンド制作を行ったのかも知れませんが、しかし全体のイメージとしてはアコースティックの雰囲気は色濃く残しております。この「電気と生のバランスは実に微妙で、彼の仕事の中でもピカイチの部類と判断しております。勿論、加藤登紀子の歌いっぷりは、その坂本音楽に引けを取らず安定度抜群で、しかも単に上手で安定しているというのではなく、微妙なアーティキュレーションと楽曲に入り込む"演技力"には脱帽です。そして何と言ってもその声質でしょう。太く少し引きずるような官能的な声(それでいて不思議にサッパリしている!)。多くのファンを抱えるヴォーカルは生まれながらの声を持っています。荒井由美を聴くと分かりやすいですが、ヴォーカルにおいてはテクは二の次かも知れません。まず唯一無二の「声」を持っているか?ということになると思います。
諄いようですが、本作の好感が持てるところは、その腕っこき二人が制作したアルバムでありながら、それが押し付けがましくなくアッサリとした清涼感を伴っている事です。
内容は相当に濃い!しかし、それでいて聴き疲れしない作品とするのは大変難しい。本作は一度ハマると折りにふれて聴きたくなるアルバムです。個人的見解ながら、パッと聴きで圧倒されるというよりは、何だか知らないが長く聴き続けてしまうアルバムというのが希にあります。そういったところで言えば本作は間違いなく名盤の部類に違いないでしょう。
さて、Oさんはその後音信不通となってしまいましたが、今はどうされているのでしょうか。いつも懐かしい人リストの最上位です。当時は音楽の糧となるような良き音楽を沢山教えていただきました。こんなところでお礼を言うのも変ですが(笑)御礼を申し上げたいと思います。