ピアニスト・タカの脱線CD評

FLAT122キーボードとして活躍・ピアニスト・タカ音楽評

Phew「A New World」/二度美味しいキャラメル

暗い夜道で笑ったら、、そりゃもう、、!

実はこのアルバム、救いを求めて買ったような気もする。酷い鬱な精神状態。音楽を止めてしまいたいという「また始まったか!」という"悪い病気"の再発。良薬は口に苦し、とはよくぞ言ったもの。結果として、自分が望むような救われ方ではない方向ではあるけれど、しっかりと救われた気がするのである。
昨年11月からスタートさせた副業のためこの町の至るところに出没する自分。一昨日も新しく考えた近道で坂を下り川の向こう側を目指す。人の住まなくなったN団地群の影は闇夜よりも深く不気味という他はない。こんなルートを考えた自分を呪いつつ愛用のiPodを遠くなりかけた両耳に差込む。聴こえて来るのは昼休み途中まで聴いていたPhewの新譜。思わず笑ったら出会ったオヤジがササッと避けていったのは当然であろう。暗闇で笑う男、、そりゃ恐ろしい。

そしてこの何しろこの音楽、、、。

この夜道にハマる最強の音楽と言い切れる。それは夕暮れの物憂い時間帯にECM・ギタートリオがお洒落に溶け込むのとは随分と趣が異なるわけだけれど。そして聴いていくと自然に出る反応は"笑ってしまう"こと。どこから来るのだろう?このヴォーカルの素晴らしき滑稽具合というのは。笑いを誘うのは、その上ずった音程感に在るのかも知れない。微妙にジャスト位置から#(シャープ)していく。それはPhewにしては(笑)まともに歌う「浜辺の歌」であっても例外ではない。しかし何をカバーするって、、「浜辺の歌」というところに真骨頂の一旦があると思う。英国にケイト・ブッシュあり、、そして日本にPhewあり!と言い切って良いか。Phewを知ったのはもう数十年前、限りなく遠い昔のこと。彼の坂本龍一NHK・FMで教えてくれたのがキッカケだ。即行でアルバムを買ったのだが、それがホルガーシューカイとのコラボレーションで知られている作品となる。比較すると今回の新作は圧倒的に自分の好みに近いように感じる。Youtube・ライブ動画を見ると、彼女は意外に"ライブの人"である。ヘッドセットマイクと、サンプラー、そして各種音源をバランスさせるミキサーを一人で操作しつつ、あの例の掴み所のない「声」を発して行く。サウンドや声にディレイを中心としたEF(音響効果)を付加したり、というところが目立ったところだが、実は歌詞にも注目していただきたい。
これが実は笑える、、というか面白い、、というか訳が分からない。Phewを聴く人間はデジタルの様にカッチリと分けられると思う。0/1の世界、、白か黒か、、紙媒体においては原則的に墨1Cで生成されるQRコードのようでもある。好きと嫌い、、この音楽に入り込む音楽ファンは一体どういう人達なのだろうか?聴き手側の個性もまた比例して面白そうだ(笑)本作に入っている作品はどれもこれも面白く、僕にとっては新しい音楽として聴こえる。全体的には「ひとつのカタマリ」として差し出されるところは、映画のようでもある。意外に様々な手法を凝らしているのだが決して散漫になることなく、自分の設定したレールを驀進するところが美しい。ぶっ飛び具合で言うなら「My Walts」だろうし、  その堂々とした歌いっぷりに呆れ笑ってしまう上記「浜辺の歌」も目立つところか。このアルバムの心に投影する力は信じられないほどで、さっぱり上手く行かない手前の音楽など畳んで彼女の宣伝部長になりたいくらいの気持ちでコレを聴く。そして教えられることもまたある。自分の音楽を見つめそこから自然で曲がらない形で表現方法を捻出すること。上記で少し触れた動画ではR社のSPシリーズ(直感的な操作を可能としている小型サンプリングマシン)を使っている。このマシンの使いこなしから彼女が自然体で音楽をやっていることが見て取れる。頑固で不器用で「このようにやりたい」ということが明確ということ。人にどのように見られようが「知ったこっちゃない」自分の信じた道を突き進むというカッコいいオバサマ(失礼!)なのである。
楽しく聴けるだけではなく、音楽のやり方まで教えてくれる某キャラメルのような二度美味しいアルバムなのであります。

※本記事は白紙からの書き直しです。このアルバムがより好きになったところでリニューアルしました。