ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

アンドレマルケスは、ブラジル音楽だけでは括れない!

ブラジル・ジャズシーンの先鋭ピアニストを聴いてみる

本作は、ジャズピアノトリオの編成となります。また、最たる特長として"エルメート・パスコアール"というブラジルを代表する作曲家の作品を取り上げており、それは材料として十分に咀嚼され創出されたものだと思います。アンドレマルケスは芸風が多彩で形容に若干困るところがあるのです。ブラジル音楽のイメージで本作を聴くと異質な感じを受ける部分がありますが、伝統的なブラジル音楽をそのまま演奏されては飽きっぽい僕としては少し困ると。その点、これでOKということになりますか。僕は比較すれば、その幅広い音楽性が余すところ無く楽しめる6人編成のスタンスを評価しますが、聴きやすく、取っ付きやすいのは本作かも知れません。僕がこのアルバムを買った理由は2つあります。ひとつは偶然通りかかったYoutubeで聴いた(見た)内容に共感を持った事。この時、大変不勉強なことにその作品がエルメート・パスコアールをカバーしたものとは気付きませんでした。ピアノの左手がその役割を十分に発揮したアレンジには、ブラジル音楽やジャズというよりは、間違いなくクラシックの素養を感じさせるところであり、実際ピアノソロアルバムではそれが顕著なのであります。そして2つ目は、リズム隊に最近僕が最も気に入っているドラムのブライアン・ブレイド、ジャズシーンでは説明不要の超絶技巧ベーシストであるジョン・パテトゥチが名を連ねているというところです。この二人のリズム隊はピアニストやギタリストからすると、ひとつの理想とも言える組合せではないか?と思います。
これは、Youtubeでも確認出来ておりましたが、この二人のアプローチにも相当な期待を持っておりました。
結論から言えば、エルメート・パスコアールの音楽を「アンドレマルケスピ・アノトリオ」として煮詰めるには少々時間が不足していたところが僅かに感じられるものの、これが聴く回数を増やしてまいりますと、不思議に気にならなくなり全体としての音楽内容に耳が行くようになります。何しろ、テクニックがあるので、乗り越えちゃっておりますが、この二人だから何とか形に出来たのかな?という作品が散見されます。エルメート・パスコアールは彼のオーケストラで聴くと、大きな振幅、少々のズレや引っかかりをものともせず、音を前に前に進めるのが魅力です。しかし、ピアノトリオという小さな単位では、一人のパイの取り分が大きく状況は大きく異なる。そこはそれ、アルバム全体を聴き終わると、上手にまとめた印象が残ります。例えば"本家エルメート"のオーケストラではガチャガチャと賑やかだったところが、精錬で温度を涼し気なものに下げて、これはこれで聴いて共感する聴き手もおられると思うのです。
アンドレマルケスの音楽アプローチはジャズシーンではあまり見受けられない現代的な感覚を前面に出すところがあります。その現代的なアプローチは本作でも堪能出来ますが、これはピアノソロでの演奏が顕著でしょう。僕は上記でふれたピアノの左手に特長を持たせたM3.COALHADA、そしてピアノソロのM7.FERRABENSが本作を支える柱と思います。
本作は、もう少し柔らかく主張する作品も入っており、全体としてはカラフルな造作です。ジョン・パテトゥチのとても美しい弓弾きも聴けますし、ブライアン・ブレードも実はいつもの主張を少し奥に引っ込めて軽快でラテンを意識した演奏を考えたのかも知れません。こうして、何度も聴いて行くと評価を変更しなければいけないアルバムというのは少なからずあります。本作もその典型であり、今、こうして若干慌て気味で手直ししております。もう一度読んでいただければと思うのですが、さて。。《2019.05.05 加筆・修正》