ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

遠い存在だったシューベルト「4つの即興曲」・ピリス

ピアニストによって印象が大きく変わる名作
遠い昔、ピアノの先生に「君にはシューベルトは違うんだろうな」と言われたことがある。シューベルトのピアノ曲をあまり好まないことを見透かされていたのだ。
しかし、これほどの時を経て、シューベルトはクラシック音楽の長き歴史において、圧倒的なメロディメーカーだと強く信じるようになったのだが、そのきっかけが本作。
この即興曲のOP90-899 3番を偶然ECMサイトでシフの演奏で聴いたのだが、その圧倒的とも言える音の描く美しい線に驚いてしまった。自分の嗜好の特徴なのだが、どうも長たらしい曲は苦手。なのでマーラーなんかはダメ(笑)なのである。その点シューベルトはあっさり終わる作品が多く、最近では手の平を返して、好みの作曲家の一人。
この作品で最も好きな演奏は、本当はホロヴィッツのものだ。
なので、CDを調べたが出てこなかった。リリースしているのだろうか。何かの作品集にポツンと入っていたりするのかも知れない。ホロヴィッツってそういうプログラムが多いから。
人気曲だから、Youtubeで聴いていただければと思う。

www.youtube.comそして、この作品を通してピアニストが如何に異なるアプローチをするか明確に分かると思う。というか、そんなことは知っているのでっ!と言われそうだ、笑
随分、いろいろと聴いてみたが、ベタなところではやはり内田光子ということになる。またブレンデルもシューベルトを十八番(オハコ)にしている。しかしホロヴィッツのライブには及ばない。ハッキリと御大の方が僕は好きだ。
先を急がず、ポツンポツンと音を発するが、その出し方にはとてつもない強さがあり、完璧な彫刻を目の前に差し出されたようだ。動画で見る手の動きは、理解出来ない独特なフォームであり、どうしてこんな動作からこのような、描き方が可能になるのか分からない。
内田光子のアルバムからこの有名な3番を聴くと、音響が非常にライブで美しく雄大でダイナミックな音だとは思うが、出していただきたい音が殆ど聴き取れなかったり、どこか音楽を大きく演出したかったのか、この曲には違うアプローチのように個人的には思った。
そこで、さらにピアニストを探すと、ピリスがいた!
ピリスは昔から好きだったピアニストだが、どちらかというとモーツァルトのイメージが強く、シューベルトではどうだろう?と思ったのだが、聴くとこれがホロヴィッツとはまた違う良さがあって、僕はこれをオススメとしたい。
まずレコーディングがニュートラルであり、奇策はない。それでいてピアノの音がきちんとピアノの音としてそこに在る。これが意外にエンジニア、プロデュース、ピアニストの好みなのか、ピアノサウンドが本当のピアノの音と乖離している場合も多いように思う。レコーディングによって、様々なサウンドにトライして音楽ファンが納得すればそれでOKとも思うけれど、ピアノを始めた10才からヤマハ・アップライトで耳にしてきた音、上京して先生に叱られながら弾いた音、分不相応な尊いお師匠さんのホームレッスンで触っていたピアノ、それらがミックスしたイメージが自分の好むピアノの音なので、どうにも仕方がない。「思い出は美しすぎて」というやつである、笑
そして、このピアノのアプローチにはどうしても伝えたいポイントがあって、それは左手の音の描き方。
これは、他のピアニストとは一線を隔てている。もしかするとダメな人もいるかも知れない。それほどに左と右のバランスにキャラが際立っている。しかし、作品の内容からすると、これは正しいのかも知れない。シューベルトは左手側にも美しく、極めて大切なラインを設定しているから。ピリスは作曲家の意図するところ、それから作曲そのものに対しても深い造詣があるのだろうと推測します。

余談:数年前にピリスのレッスン風景というのTVでやっておりました。その中でピリスが若い青年(だったと思う)に「緊張しないで!私を怖がらないで!」と言っておりました。なぜか、それが微笑ましく心に残りました。ピリスさんてとてもイイ人なんですね。そのことが本作ともどこかで繋がっています