ピアニスト・タカの脱線CD評

筆者はFLAT1-22・天然キーボード奏者の脱線転覆の珍説が脈絡なく展開!

ゴーゴーペンギン・Gogo Penguine

なかなか得難い、飄々としたスッキリサウンド

このバンドを知ったのはおそらく3年くらい前になると思う。自分の稼働させたいバンドをピアノトリオ一択となった頃になる。
今もそうだが、ピアノトリオに関しては純粋な音楽として聴く部分をあるけれど、どこかに同じ編成の音楽をやる者として参照すべき点を意識するところがあると思う。
この本作もそういう中の一作と言って良いだろうか。
GP(面倒なので本サイトではこのように呼称します。)という何やらキュートなネームのユニットだが、内容は若干陰影に富んだミニマルミュージックを土台としたフュージョンと言ったところだろうか。ジャズとは言えないと思うし、またこの編成でジャズから比較的遠い位置で音楽をやっているのが、彼らのキャラであり強みでもあると思う。
他では聴くことの出来ない、独特なサウンドと何度か聴くとわかってくるが、構築されているライン、ハーモニーには独特な癖が感じられる。
この独特な暗さは、全て投げ出して好き!ということは(個人的には)出来ないが、全体としては好感の持てるサウンドを作り上げている印象を受ける。
本作は、彼らの音楽を更にタイトに練り上げ、虚飾を排した昔のフォルクスワーゲン・ゴルフのような(笑)作品と思う。因みに今のゴルフはうすらデカくなって幅が180cmもあるから、あくまでも初期型とお断り。
旋律と言えるラインは驚くほど少なく、むしろベースが奏でているフレーズが中心線なのか?とも思える件もあるが、それは今回彼らが行いたい新機軸の一環ということになるのだろう。最初に聴いた時は、骨組みだけで出来ているようなさっぱり加減に、物足りなさや、これで作品として完成したの?という疑問・拒否反応があったが、日を変えて数回聴いていくと、どこやら腑に落ちた妙に納得した心境となった。また、どの作品が特に出来が良いとか、中心であろうとか、通常は感じるはずの感想は自分としては浮かばないのが不思議。丸ごと1枚、これで1作品という塊で聴く流れだろうか。
これは彼らが、バンド音楽を誠実に深化させた結果ということが出来ると思う。ピアノは、このアルバムに限らず細かなアルペジョや、連打に終始することが多く、音の出し方は丁寧で綺麗なタッチをしている。まず、間違いなくクラシック出ということが言えるが、若干、レコーディング制作においてエファクティブな傾向があり、ここは若干「鼻につく」ところなのだけれど、これが上記で述べた全てが好きと無条件に言える訳ではない、という捉え方につながる部分だと思う。もう少しピアノの素の音で勝負しても良いのでは?と引っかかるところだ。
でも、そのサウンドのところは個人差のあるところであり、これを白黒ハッキリ付けるのは無意味に近い。例えば、ディレイやリバーブを殊更好む傾向のある音楽家やエンジニアが意外に多いが、また徹底して外部的な音響を嫌うデッドな音を好む場合もあり、何を隠そう僕も後者の部類に入ると思う。

それにしても、本作の個性はとても際立っている。昨今一択だったフロネシスの牙城を脅かすところがあり、人に聴かせてみるとGPの方がずっと好き!という場合が多く、人気の点ではむしろこちらに軍配か?というところだ。
ライブで圧倒的なテクニックで客を押し倒すだけが音楽でないことは勿論だが、GPは三人の合奏によって一つのイメージを表しているところに好感が持てる。テクニック的にも申し分ないが、その質はフロネシスとは全く異なり、猛々しさがなくどこか涼し気であっさりしている。まるで濃厚魚介系ラーメンと、あっさり醤油ラーメンの対決のようでもある。またエコー類を多用するものの、と言ってシンセやサンプラーの方へ向かうところはなく、あくまでもピアノトリオというところは守っている。聴き比べというのならこの2ユニットは大変興味深く面白い。機会がありましたら是非。